小2でかけ算を習うとき、一度は出てくる文章題が
「3人の男の子がボールを2こずつもっています。ボールはぜんぶでなんこですか」
のような問題です。
これ、定期的にtwitterやブログで話題になりますよね。
3×2=6って書いたらバツにされた!ってやつが。
この話題について、塾講師としての僕の見解を書いてみたいと思います。
なお、僕は文学部出身でガチ理系なわけじゃないので言ってることは適当です。
2×3=3×2だよ派の意見
twitterやまとめブログなんかを見た限りでは、こっちの方が優勢な気がします。意見をまとめると、
- 乗法の交換法則で2×3=3×2だ
- 男の子3人にボール2個持たせるんだから3×2=6でいいはずだ
- 答えが同じになることが分かればどっちでもいい
なんて感じでしょうか。
そしてこの意見を持つ方の多くが、「だから算数・数学嫌いが量産されるんだ」「マニュアル通りにしかできない教師はク○だ」という意見につながっていくようです。
確かにその通りですね。
正解なのにバツにされたら算数が嫌いになります。
本当に2×3=3×2なの?
ですが、前項で2×3=3×2派の多くの方があげている交換法則については、2×3を計算するときに3×2で計算しても良い、という根拠であってこの問題を3×2と立式してよい根拠にはなっていない気がします。
乗法の定義からすれば、2×3=2+2+2ですので、
ボール2個をもった男の子が3人いればボールの数は
2個+2個+2個=6個、となります。
これがボールの個数についての立式、2×3=6ですね。
この問題に3×2=3+3、と式を立てるということは
男の子3人+3人、という意味になります。
人数について立式している形ですね。
ところが、人数について立式したときに、意味は違ってもボールが6個なのは見て分かりますよね。
ここで分かっちゃうからこそ、この問題はこじれてきます。
3人×2=6人って式になるから×だろって意見に対し、2×3=3×2派の方は「柔軟な思考をしろ」「子供の創意工夫を大切にしろ」「答えは合ってるからいいんだ」という意見、すなわち左図にあるとおり、この計算でもボールが6個であるという事実で返すことが多いようです。
僕も、6個っていう解答を出す子供の工夫は評価してあげたいと思います。でも、ここで3人×2=6個、という式を許してしまうと、後で困るんです。
被乗数・被除数の単位
5年生になると、「単位量あたりの大きさ」、いわゆる割合の学習が始まります。
そこで出てくる問題に「45mの重さが54Kgのロープがあります。このロープ1Kgの長さは何mになりますか」なんてのがあります。
この問題、多くの子が54÷45=1.2と答えます。
交換法則でどっちでもいい、って認識でいる子は「わり算しやすい順に式を立てる」って癖がついちゃうんですね。
この計算だと45÷54は割り切れません。
「割り切れないから違うと思った」なんてコメントがよく出てきます。
単位がどうなるか、ではなく数字がどうであるかをもって立式しているのです。
ですが、この問題の解答は45m÷54=5/6m、ですよね。
何mになるかの立式をするのだからmを被除数に置かないといけない、という発想を養うために、先ほどのボールの問題でも「何個になるかの立式だから被乗数に個数を置かないといけない」と教えたいんです。
ここから先、kmを時間で割ればkm/時になり、km/時に時間をかければkmに戻るという速さの3公式や、のちのちのg/㎤やmol/L、なんて計算に向かっていく上で、「単位」に関する認識は非常に重要になります。
この認識が弱い子ほど、後で数学嫌いや化学・物理嫌いになっていきます。
「自由な発想」「創意工夫」はルールを踏まえたうえで行うからこそ価値があります。
ルール無用の自由な発想はただ適当にやっているのと差がありません。
そのファーストステップとしてのかけ算の文章題が先ほどのボールの問題ですので、先々のことを考えて3×2=6をバツにする先生がいるわけですね。
指導現場の実際
とはいうものの、小2の算数、小5の算数を指導している教師にそこまでの認識があるか、っていうとはなはだ疑問です。
僕の指導していた塾でも、前項の割合のような問題に対して「10kgで20mなら1kgで2mだろ、分からないときは簡単な整数で置いてみろ」とか、雑な指導をする講師がいたものでした。
受験生でも最後まで割合計算や速さ計算の立式順序が定着しない子がいるのは、スタートの段階でこんな指導がされていたからかな、と思います。
どうして3×2=6をバツにするのか、その理由の説明なしにバツにする教師がいたとしたらそれは問題です。
ですが、学校の指導現場ではそんな説明をする余裕がないのも事実ですね。
小2のうちにこんな話しても伝わりませんし。
もし僕が小2を指導するときにこの問題に直面したら、2個×3=6個だから式はバツだけど、答えはマルだよ、っていうのが精一杯の対応かな?