大学合格実績から見る都立中高一貫校

こちらは2018年のデータをもとにした古い記事になります。
2020年の大学合格実績については↓こちらをどうぞ。

東京都では2005年から、「公立中高一貫校」というものを立ち上げました。
公立校ですから授業料は無料で、エリート教育は行わないという建前の元「未来のリーダー育成」なる標語を掲げたり、過度の受験競争を招かないという建前の元、「適性検査」なる入試システムを導入しました。

にもかかわらず、結局は私立中高一貫校と同様のカリキュラムで授業を行っています。
合格!
むしろ下手な私立一貫校よりよっぽど勉強重視の指導方針だったりしますので、
私立に通わせる経済的余裕のない家庭や私立志望だけどあわよくば・・・なんていう家庭がここを目指してきます。
ですが、都内にたった10校+千代田区立九段中等教育学校しかありませんので、どこも募集人員の6倍近い受検者数を集める超人気校となっています。


今回はこの都立中高一貫校について、僕の意見を書いてみます。

都立中高一貫校の合格実績

  東大 国公立
東大除く
慶応 早稲田 上智 理科大 GMARCH 卒業生数
都立小石川 11 50 23 41 11 31 112  155
都立三鷹 1 43 18 17 12 17 107  149
都立白鷗 6 53 18 47 22 24 148  226
都立富士 0 37 4 17 11 9 101 191
区立九段 0 34 7 13 12 19 83 142

(各校HPより、平成30年度現役合格者)

都立小石川、三鷹、区立九段は高校入学者のいない「中等教育学校」で白鷗と富士は高校入学者のいる「併設型一貫校」です。

大学合格実績を見る上ではこれだけでは不十分で、「旧帝東工一橋」や「国公立医・医」「私立医歯薬」あたりのデータも欲しいですが、この数字を皆さんはどう評価されますか?
小石川の東大11名は立派な数字ですよね。
白鷗も現役東大6名で、31年度入試では一気に人気を回復しました。
富士や九段も東大こそ出なかったとはいえ国公立に十分合格させています。

公立一貫校の指導は十分に成果を上げていると見てよいでしょう。

日能研R4・四谷80%偏差から見る都立一貫校のレベル

公立一貫校の適性検査についての詳細はまた別で説明するとしますが、その難易度については各校ごとの採点基準や問題ごとのブレ幅が大きすぎて公立一貫模試からのデータも当てになりません

ましてや私立中の入試と比較して難易度を語ることなどできそうにないと思われますが、日能研R4や四谷の80%偏差ってやつは「追跡調査」を元に作っていますので、「公立一貫校に合格した私立併願者のレベル」を知るには十分なデータとなります。
そこで、2/1・2/2の私立中と一緒に並べてみます。

ただし、この偏差値による配列は合格難易度を示すものではありませんし、「小石川に受かるなら世田谷学園は滑り止めになる」とか「吉祥に受かる子は九段は余裕」なんて話ではまったくありません。そこだけは頭に入れておいてください。

日能研R4による都立一貫校偏差値(平成31年予想・男子)

偏差値 2/1 2/2 2/3
65~69 麻布(67)

  小石川(67)
早稲田(66)
慶応中等部(65)
60~64 駒場東邦・早稲田(64)
渋谷教育学園渋谷(63)
早稲田実業・海城(62)
明大明治(61) 両国(63)
都武蔵(62)
55~59

本郷(58)
桐朋(55)

立教池袋(56)
青山学院(55)
桜修館(59)
白鷗(56)
大泉・南多摩・三鷹(55)
51~54 中大附(54)
城北(53)
世田谷学園・巣鴨(50)
明大中野(54)

立川(54)
区九段(53)
富士(49)

日能研R4では公立一貫校の偏差値に大きな開きが見られます。
小石川と富士、適性検査ⅠとⅡではⅡの大問2以外同じ問題なんですけどね。

日能研R4による都立一貫校偏差値(平成31年予想・女子)

偏差値 2/1 2/2 2/3
65~69 桜蔭・渋谷教育学園渋谷(67)
女子学院・早稲田実業(66)

豊島岡(67)
明大明治(65)

慶応中等部(68)
小石川(67)

60~64 洗足学園女子(63)
吉祥女子(60)
青山学院(61)

両国(63)
都武蔵(61)
55~59

頌栄女子(59)
鴎友学園女子(58)
立教女学院(57)

  桜修館(59)
白鷗(56)
区九段・大泉・南多摩・三鷹(55)
51~54 中大附(54)
大妻(51)
  立川(55)
富士(49)

男子と比べると区立九段の人気が高いのが分かります。
また、共学の渋渋や青学・明明は女子の方がかなり偏差値が高く出ます。

四谷合不合による都立一貫校偏差値(平成31年予想・男子)

偏差値 2/1 2/2 2/3

65~69

麻布(66)
渋谷教育学園渋谷(65)
  早稲田(67)
小石川(65)
60~64 駒場東邦・早稲田・早実(64)
海城(63)
本郷(60)
明大明治(60) 慶応中等部(64)
都武蔵(61)
桜修館・大泉・両国(60)
55~59 桐朋・城北・中大附(55) 青山学院(58)
立教池袋(57)
明大中野(57)
九段・三鷹・南多摩(58)
立川・白鷗・富士(57)
51~54 世田谷学園・巣鴨(52)    

四谷合不合による都立一貫校偏差値(平成31年予想・女子)

偏差値 2/1 2/2 2/3
65~69 桜蔭(71)
女子学院・早稲田実業(69)
渋谷教育学園渋谷(68)

豊島岡(70)
青山学院(65)

慶応中等部(70)
小石川(65)

60~64 洗足学園女子・吉祥女子(62)
立教女学院(61)
鷗友・頌栄(60)
明大明治(63)

都武蔵(63)
桜修館・両国(62)
区九段・大泉・南多摩(60)

55~59

中大附(57)

  立川・白鷗(59)
富士・三鷹(58)
51~54 大妻(53)    

日能研R4と比べ、四谷大塚では都立一貫校の偏差値が接近しています。
これは数字の母体となった日能研全国模試と四谷合不合の違いによるものでしょう。(日能研の方が分布が広い)

とりあえず数字に差はあれど、私立中と比較したときの位置づけが見えてきます。
次に、ここで挙げたいくつかの私立中高一貫校の合格実績を見てみます。

私立中高一貫校の合格実績

  東大 国公立
東大除く
慶応 早稲田 上智 理科大 GMARCH 卒業生数
海城 41 90 97 108 14 58 45 315
世田谷学園 4 37 40 51 26 88 157  212
鷗友学園女子 5 66 49 47 36 48 259  259
大妻 1 39 19 31 16 31 224 272

(各校HPより、平成30年度現役合格者)

先ほどの公立一貫校と比べてどうでしょうか?
私立中高一貫校は公立一貫校に比べて慶応・早稲田・上理GMARCHへの合格者数(割合)が非常に多くなっています。

富士・九段あたりですと卒業生に対しGMARCH合格数が半数程度です。
当然、GMARCH合格者は1人で複数の合格を出していますし、大半が国立慶応早稲田の止めです。
GMARCHのボリュームが小さいということは、このラインに届かない生徒が多数いることを示しています。
あえて取り上げる必要もないですが、明大明治や青山学院に中学受験で合格すればその時点でGMARCH確保できるのに対し、6年でそこまで届かない子にスポイルしてるってのはどうなんでしょうかね。

一方、偏差値的にはそれほどでもない(十分難関校ですが・・・)世田学や大妻はGMARCHのボリュームが厚くなっています。
海城の東大国立、鴎友の慶早上への合格数は都立中高一貫校最難関の小石川より遙かに上です。
小石川の東大現役合格率が10%近くに達しているデータを見れば確かにすごい!となりますが、上位層以外が育て切れているのか?という疑問がわいてしまいます。
医歯薬系を取り出したり、国立でも旧帝のデータを出したりすると差は歴然とします。

優秀な生徒を集め、私立校と同等のカリキュラムで進むはずの都立一貫校、なのになぜこんなにも合格実績が見劣りするのでしょうか?

都立中高一貫校の抱える問題点

偏差値は同程度ですが、私立難関校と公立一貫校の試験(検査)問題の難易度は格段に違います。
知識を要する問題が出題されない適性検査は子供によってはとても「易しい」のです。

学校見学や文化祭等で公立一貫校の生徒たちに話を聞くと、「そんなに受検勉強しなかったよ~」なんて言う子がいます。
見栄や謙遜で言う子もいるでしょうが、実際にたいして勉強時間を取らずに合格するが結構います。
まあ、そんな子はガチで私立受験させたら御三家レベル受かる子なんですけどね。
塾のカリキュラムなんかを見ても、私立受験コースに比べると公立受検コースの授業時間は半分以下のことが多いです。

受験競争の過熱を防ぐために知識や反復演習を要さない適性検査を作った結果、実力よりも本番でのラッキーパンチが出るかどうかが合格の鍵を握っています。
むろん、ラッキーパンチを当てるためには解答作成に一定の修練は必要なのですが、情報分析と自己表現が得意な子には簡単です。

その結果、受験生としての知識と長時間の学習への耐性をつけていない子も入学しているのが今の都立中高一貫校です。
一部の私立校併願者と本当に優秀な子はよいのですが、多くの生徒は公立一貫校に入学後「私立難関校と同じカリキュラム」で進む授業にかみ合わなくなります。

別項で解説したとおり、私立難関校が大学受験をターゲットに進度の速いカリキュラムを組めているのは中学受験時の「受験生としての知識と長時間の学習への耐性」という素養があるからです。

私立受験生なら理社の基礎知識は十分ですし、相似や場合の数なんかは中学数学より高いレベルでこなしています。
塾カリキュラムも一日9時間とか平気で授業組んでますし、大量の宿題とテストにも慣れっこです。
ところが、都立一貫校専願者にはこれがないのです。

また、都立一貫校はしょせん「公立」です。
一応、教員は公募制ですし、やる気は一般の公立よりは上でしょうけど。
とはいえ商売っ気はありませんから、ついて来られない生徒へのフォローは私立に比べて圧倒的に弱いです。
最難関大・学部を狙えるトップ集団を走る子には手厚いですが、GMARCHすれすれの子を引き上げる体制が全くありません。
できない子を放置するわけではなく補習なんかも組んでくれますが、私立一貫校に比べてそのフォローは弱いです。

いっぽう、私立一貫校は成成獨国武や日東駒専ラインの子をGMARCHまで、GMARCHラインの子を慶早上理まで引き上げるのが上手いんです。
このページもそうですが合格実績と言えばそのボリュームを見ますから。

大学進学を考えたら都立一貫校は避けるべき?

最近の都立一貫校入試は私立併願組にかなり荒らされてる感があります。
サピや早稲アカから小石川の合格が増えてきていますからね。
2020年大学入試改革で作られる新テストが今の都立一貫校の適性検査に酷似していることもあり、私立中の入試が知識偏重型から資料の分析とそれに対する論述力を重視したものに変化してきているので、私立上位校受験者は都立一貫校が受験しやすくなっているんですね。

そのせいであおりを食ってるのは都立一貫を売りにした塾でしょうね。
どこぞのそんな塾が「ついに私立に進出!」ってCM打ってるのには失笑しましたが。

私立併願者の合格が増えることによって大学進学実績は上向いていくでしょうが、そうすれば公立一貫専願者には厳しい戦いになっていきます。
かといって公立専願者が多数合格している一部の学校では進学実績が上向かないし・・・というジレンマも見て取れます。
ちょっと先行きは不透明ですね。

今の時点で言えることとしては、私立中には落ちこぼれを防ぐセーフティネット幾重にもめぐらされていますが、都立中高一貫校ではその部分が非常に弱いということです。
将来のことなど分かりませんが、子供が中学受験の6年後に大学受験で成功する可能性を僅かでも上げたい、ないしは失敗のリスクを少しでも減らしたいなら、私立一貫校の方がいいかもしれません。
とはいえ、学費の面では都立一貫校は魅力です。
区九段なんか公立のくせに海外研修行っちゃいますからね、税金で。

僕の教え子にも渋谷教育学園渋谷を蹴って九段に行った子、吉祥女子を蹴って桜修館に行った子、本郷を蹴って三鷹に行った子、さまざまな例があります。
幸いなことに彼らは学内でも優秀な成績を修め、大学受験にも成功もしくは今後きっと成功してくれそうですが・・・

追記・・・

併設型都立中高一貫校が、2022年度入試で高校募集を停止する発表がありました。
これにより勢力図も変わってくるでしょう。

2019(平成31年度)の都立一貫校の大学進学実績は、この記事を書いたときよりも良化していますので、今後より中下位の生徒の実績を上げてくれることを期待します。

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